
1.「まさか、うちの店に警察が来るとは」
ガールズバーやスナック、カラオケバーなどの経営者から、警察の立入りや呼出しについて相談を受けることがあります。
そこで感じるのは、経営者の方が必ずしも風営法を知らないわけではない、ということです。
「カウンター越しでも接待になることは知っていました」
「でも、まさかうちの店に警察が来るとは思わなかった」
「ほかにも同じような営業をしているお店はたくさんありますよね?」
こうした声を聞くことがあります。
何年も営業していて、一度も警察から注意を受けていない。だから、これからも大丈夫だろう。
そう考えてしまう気持ちは分かります。
実際、何年間も営業してきた後に、初めて警察から指導を受けたという相談もあります。
しかし、何年も営業できていたことと、適法に営業していたことは別の話です。
私は以前、警察官として刑事事件の捜査に携わっていました。現在は行政書士として風俗営業の許認可を扱っています。
今回は、元刑事としての経験と、行政書士になってから実際に受けてきた相談をもとに、警察の指導と無許可営業の取締りについてお話ししたいと思います。
2.風営法違反は、いきなり逮捕されるのか?

「最初は警察から指導されるだけですよね?」
このように考えている経営者は少なくありません。
私の経験や、行政書士として受けてきた相談からすると、警察がまず警告や指導を行い、改善を促すケースはあります。
警察としても、違反している営業者が指導に従い、適法な営業に改めるのであれば、それに越したことはありません。
警察の仕事は、違反している人を一人でも多く逮捕することではないからです。
特に風営法のように、社会の秩序や営業の適正化を目的とする法律では、指導によって違反状態を改善してもらうことにも意味があります。
ただし、ここは誤解しないでほしいところです。
警察が必ず事前に警告してくれるという決まりはありません。
事案によっては、警告を経ずに事件として捜査されることもありますし、法定の要件を満たせば逮捕される可能性もあります。
「初めてだから逮捕されない」
「一度は注意してもらえるはず」
そう考えて営業を続けるのは危険です。
それでも、事件を捜査する立場から考えれば、違反の内容や悪質性が重要になることは理解できます。
3.なぜ、うちの店に警察が来たのか?

警察から指導を受けた経営者の中には、
「ほかにも同じことをやっている店はあるのに、なぜうちだけ?」
と驚く方もいます。
その気持ちは理解できます。
しかし、警察が店舗の営業実態を確認するきっかけは、無許可営業そのものだけとは限りません。
例えば、騒音についての苦情や、客引き行為に関する通報です。
最近では、地域によって客待ち行為を条例で規制しているところもあります。
こうした問題がきっかけとなり、警察が店舗の営業実態を確認することも考えられます。
また、路面店のガールズバーなどでは、道路からカウンター内の接客状況が見えることもあります。
例えば、10席のカウンターに女性従業員が5人から7人いるようなお店です。
お客さんが3人しかいなければ、従業員の方が多いわけです。
もちろん、人数だけで接待と判断することはできません。
しかし、その人数で、従業員がお客さんに対してどのような接客をしているのか。
私はそこを確認します。
特定のお客さんの相手を継続していたり、一緒に飲食やカラオケを楽しませたりしていれば、接待に該当する可能性があります。
カウンター越しだから接待にならない、というものではありません。
4.警察から「呼出状」が届くと、経営者は慌てる

警察が店舗に立ち入った際、その場で口頭指導を行って終わるケースもあります。
一方、警察署への呼出状を渡されることもあります。
行政書士として仕事をしていると、
「警察から呼出状を渡されたんですけど……」
という相談を受けることがあります。
呼出状を受け取ると、経営者の方も急に不安になるようです。
それまでは、何となく大丈夫だろうと思っていたものが、「本当に逮捕されるかもしれない」という現実的な心配に変わるのかもしれません。
呼出しの際には、飲食店営業許可証、店舗の賃貸借契約書、メニュー表などの持参を求められることがあります。
ここで重要なのは、警察が確認するのは接待の有無だけではない、ということです。
そもそも、そのお店を誰が経営しているのか。
どのような契約で店舗を借りているのか。
実際にどのような営業をしているのか。
こうした点を確認する中で、別の問題が見えてくることもあります。
なお、呼出状が渡されたからといって、それだけで逮捕が決まったわけではありません。呼出しの目的や法的な位置づけは、個別に確認する必要があります。
5.警察への呼出しから、名義の問題が発覚することも
警察が営業実態を確認する中で、許可名義と実際の営業者が一致していないことが分かる場合があります。
例えば、飲食店営業許可を取得している本人なのに、お店の営業内容を十分に説明できない。
許可名義人が警察署に出向けない。
賃貸借契約書の名義と飲食店営業許可証の名義が異なる。
こうしたケースです。
また、少し事情が違うケースもあります。
もともとAさんが個人で飲食店営業許可を取得していたお店が、その後、法人として営業しているように見える場合です。
賃貸借契約はAさんが代表を務める法人名義になっている。
お客さんに渡す領収書も法人名義になっている。
しかし、飲食店営業許可証はAさん個人のまま。
このような状況では、実際の営業主体が誰なのかを確認する必要があります。
もちろん、名義が違うというだけで、直ちに違法な名義貸しと断定できるわけではありません。
個人から法人への事業承継や、必要な届出が行われている場合もあります。
大切なのは、許可証の名義と、実際に営業している人や法人との関係を正しく整理することです。
経営者本人が問題に気づいていない場合もあるので、こうした点も確認する必要があると感じています。
6.警察が事件として扱うかどうか。重要なのは悪質性
私が刑事として勤務していた経験から考えても、事件の悪質性というのは重要です。
例えば、一人で営業している小さなスナックで、経営者がお客さんの隣に座って接客をしているケース。
一方、従業員を多数配置し、無許可で組織的に接待営業を行っているケース。
どちらも、営業実態によっては風営法の許可が必要になります。
しかし、営業の規模や違反の態様、継続性など、確認すべき事情は異なります。
さらに、18歳未満の者による接待や、20歳未満の者への酒類・たばこの提供、在留資格に反する就労など、別の法律違反が問題となる場合もあります。
外国人の留学生を雇用している場合も、在留資格や資格外活動許可の範囲などを確認しなければなりません。
単に外国人を雇用していることが問題なのではなく、法令に違反する形で働かせていないかが重要です。
こうした事情が重なると、単なる風営法の無許可営業とは異なる問題が生じます。
なお、2025年6月28日に施行された風営法改正により、無許可の風俗営業に対する罰則は強化されました。
現在は、5年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、またはその併科が規定されています。法人についても、両罰規定による罰金の上限が3億円に引き上げられました。
ただし、これらは法定刑の上限であり、違反した場合に必ずその刑罰が科されるという意味ではありません。
風営法違反を軽く考えるべきではないことは、確かだと思います。
7.警察から指導されて、慌てて許可申請に来る経営者
警察から指導を受けた後、当事務所に相談に来られる経営者は少なくありません。
相談を受けて営業実態を確認すると、接待に該当する営業をしているケースがあります。
その場合、私は風俗営業1号の許可取得を勧めます。
ただし、既にお店は営業しているわけです。
許可申請をしたからといって、その日から接待営業が認められるわけではありません。
そのため、私は必ず伝えています。
「許可が下りるまでは、接待営業をしないでください」
例えば、カウンター内の女性従業員を減らすことを考える経営者もいます。
しかし、従業員の人数を減らしただけで問題が解決するわけではありません。
少人数であっても、実際の接客が接待に該当すれば、無許可営業の問題は残ります。
大切なのは人数ではなく、営業内容そのものを見直すことです。
また、指導を受けた後に許可申請を行ったからといって、過去の無許可営業がなかったことになるわけではありません。
一方で、指導を受けても何も改善しない場合と、違反状態を改めて必要な許可を取得しようとしている場合とでは、警察から見た事情も異なるでしょう。
ただし、改善に取り組んでいることが、取締りを受けない保証になるわけではありません。
8.そもそも風俗営業の許可が取れない店舗もある

ここが、経営者にぜひ知っておいてほしいところです。
警察から指導を受けて、
「それなら風営法の許可を取りましょう」
となればよいのですが、実際にはそう簡単にいかない場合もあります。
例えば、店舗の近くに保育園などの保全対象施設があるケースです。
風俗営業の許可には、用途地域や保全対象施設との距離など、立地に関する規制があります。
営業実態に問題があると分かっても、その物件では風俗営業の許可を取得できないことがあるのです。
実際に、保全対象施設との関係で許可申請ができなかったケースもあります。
また、営業を始めた後に新しく保全対象施設ができ、その後に風俗営業の許可を取得しようとしても、立地の問題が生じるケースもあります。
このような場合、私たち行政書士でも、どうにもできないことがあります。
適法な許可申請ができる物件でなければ、書類を作成するだけでは解決しないからです。
そして、無許可で営業を続けていたことによって、結果的に難しい経営判断を迫られることもあります。
9.ガールズバーからカラオケバーへ。お店を手放した経営者も

風俗営業の許可が取れない場合、営業の方法を変えることを検討する必要があります。
実際に、ガールズバーとして営業していたお店が、接待を行わない純粋なカラオケバーに業態を変更したケースもあります。
また、お店を売却して手放したという経営者もいました。
もちろん、カラオケバーに変更すれば無条件に問題がなくなるわけではありません。
接待の有無や営業内容を確認し、必要な許可・届出を検討する必要があります。
それでも、これまで続けてきた営業方法を変えるというのは、経営者にとって簡単な決断ではないでしょう。
従業員の雇用もありますし、これまで来店してくれたお客さんもいます。
お店に投資した費用もあるはずです。
だからこそ、私は物件を契約する前や開業する前に、風営法の問題を確認してほしいと思っています。
許可を取らずに営業を続けて、警察から指導を受けてから考える。
その時点では、既に選択肢が限られていることもあるからです。
10.「今まで大丈夫だった」は、これからも大丈夫という意味ではない
警察から指導された経営者の中には、本当に驚いている方もいます。
何年間も営業してきたのに、突然警察が来る。
ほかにも同じような営業をしているお店があるのに、自分のお店が指導される。
経営者からすると、納得できない気持ちもあるでしょう。
私も、その気持ちは理解できます。
ただ、警察がこれまで何も言わなかったからといって、その営業を認めていたということにはなりません。
そして、警察の指導を受けた後に改善すれば、必ず逮捕されずに済むというものでもありません。
私は、警察に呼び出された経営者の代わりに事情を説明しに行くことを仕事としているわけではありません。
行政書士として行うのは、お店の営業実態を確認し、必要な許認可を整理し、適法な営業に向けた手続きを進めることです。
もし、現在のお店の営業方法に不安があるのであれば、警察から指導を受ける前に確認しておくことをお勧めします。
「まさか、うちの店が」
そうなってからでは、できることが限られてしまう場合もあります。
風営法の許可を取るべきなのか。現在の営業方法を変えるべきなのか。
まずは、実際のお店の営業内容を正確に把握することが大切だと思います。
営業内容と必要な手続きのご相談
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