行政書士の独り言

1.はじめに
先日、初心者に麻雀を教えるお店の経営者から、料金について相談を受けました。
単に麻雀卓を貸すのではなく、講師がそばについて、ルールや打ち方を教える。分からないところがあれば、その都度説明しながら進めるサービスです。
そこで私が疑問に感じたのが、麻雀店の遊技料金の上限でした。
教えることまで、遊ぶ場所の提供と同じ料金の枠で考えてよいのでしょうか。
お店が提供するのは、麻雀卓だけではありません。
講師の知識や技能、教えるための時間、そしてお客さんが安心して麻雀を楽しめる環境も、立派なサービスだと思います。
もちろん、法律に料金の上限がある以上、それを守ることは当然です。
ただ、風営法を専門に扱う行政書士として、単に「上限は660円です」と回答するだけでは、何か大切なことを見落としている気がするのです。
今回は、そんな麻雀店の料金規制について、少し考えてみたいと思います。
2.麻雀の遊技料金は、昭和60年から41年間変わっていない
まず、麻雀店の料金上限について説明します。
風営法第19条、同法施行規則第36条では、麻雀店の遊技料金について上限が定められています。
全自動麻雀卓で、客1人当たりの時間を基礎として料金を計算する場合、上限は1時間600円に消費税等相当額を加えた金額です。
現在の消費税率10%では、1人1時間660円(税込)。
卓1台当たりの時間を基礎とする場合は、全自動麻雀卓1台につき1時間2,400円に消費税等相当額を加えた2,640円(税込)が上限となります。
この600円という基準額、実は1985年(昭和60年)の風営法改正に伴う制度変更で設定されたものです。
2026年現在、41年間も引き上げられていません。
昭和60年といえば、まだバブル経済が始まる前です。
当時と現在では、家賃、人件費、電気代、設備費など、店舗経営を取り巻く環境は大きく変わっています。
それにもかかわらず、遊技料金の基本額は600円のままです。
もちろん、料金上限があることには理由があります。射幸性の抑制など、風営法による規制の必要性は理解しています。
しかし、40年以上も前に決められた料金が、現在の麻雀店の経営実態に合っているのか。
私は、改めて考える必要があると思っています。
実際、全国麻雀業組合総連合会も、料金上限の緩和について警察庁との協議を続けています。
これは、私だけが感じている疑問ではないのでしょう。
3.今の麻雀店は、単に麻雀を打つ場所ではない

今回相談を受けたお店のように、初心者にマンツーマンで麻雀を教えるサービスがあります。
講師が付き添って、ルールや役、打ち方などを丁寧に説明する。
単に麻雀卓を利用するだけの営業とは、サービスの中身が違います。
ピアノやゴルフであれば、レッスンのために講師へ対価を支払うことは自然なことです。
麻雀についても、教えるという人的サービスに独立した価値があるのではないでしょうか。
もちろん、麻雀には風営法という特別な規制があります。レッスンという名称にすれば、料金規制が適用されなくなるわけではありません。
しかし、実際に人が時間を使って教えているサービスを、単なる遊技料金と同一視してよいのか。
ここには法的に議論する余地があると思います。
そして、麻雀店が提供している価値は、指導だけではありません。
4.個室料金やBARのようなサービスはどう考える?

最近は、個室でゆっくり麻雀を楽しめる店舗もあります。
周囲を気にせず仲間同士で過ごせる空間や、内装・家具にこだわったお店です。
BARのように、お酒や食事を楽しみながら麻雀を打てる店舗もあります。
当然、個室を整備するにも費用がかかります。雰囲気のよい空間をつくるには設備投資も必要でしょう。
そこで、遊技料金とは別に「個室使用料」や「サービス料」を設定している店舗もあると聞きます。
では、こうした料金は、どこまで認められるのでしょうか。
例えば、個室使用料を徴収していても、その実態が単に麻雀をするための追加料金なら、遊技料金の一部と評価される可能性があります。
一方、麻雀とは区別できる独立したサービスが提供されているなら、その対価をどう評価するのかという問題もあります。
飲食料金、個室使用料、サービス料。
名前が違えば法律上の扱いも変わるという単純な話ではありません。
実際にどのようなサービスを提供し、お客さんが何に対してお金を支払っているのか。
そこまで見なければ、判断できないと思います。
なお、個室の設置やBARとの併設については、料金以外にも構造設備や営業形態に関する規制がありますので、別途検討が必要です。
5.プロ雀士との対局イベントや大会参加料はどうなる?
もう一つ、興味深いのがイベント料金です。
麻雀には、プロ雀士が参加するイベントがあります。
好きなプロ雀士と同じ卓を囲んで対局できる。
プロからアドバイスを受けたり、サインや写真撮影などの特典が付いたりするイベントもあります。
ファンにとっては、単に麻雀を打つこととは違う価値があるでしょう。
では、こうしたイベントの参加料をどう考えるのでしょうか。
プロ雀士と一緒に麻雀を打てるという特別な体験も、すべて通常の遊技料金として考えるべきなのでしょうか。
もちろん、参加料という名称だけで遊技料金の上限を超えられるわけではありません。
しかし、プロ雀士への出演料や、イベント運営に要する費用など、通常の麻雀営業とは異なる要素もあります。
さらに、麻雀大会の場合はどうでしょう。
大会には、受付、対戦の組合せ、進行管理、審判などの運営業務があります。
そのために大会参加料を徴収する場合、どの部分が遊技料金で、どの部分が大会運営の対価なのか。
これも簡単な問題ではないと思います。
もちろん、大会の参加料と、成績に応じた賞金・賞品の提供は別の問題です。
風営法第23条第2項では、麻雀店が遊技の結果に応じて賞品を提供することは禁止されています。賭博罪との関係についても注意が必要です。
大会だから何でも認められるわけではありません。
ただ、こうして考えてみると、現在の麻雀店には、従来の時間単位の遊技料金だけでは整理しにくいサービスが増えていることが分かります。
6.料金の名目を考えるより、サービスの実態を評価する制度が必要では?

私は、料金の上限を超えたいなら「サービス料」と書けばよい、と言いたいわけではありません。
それでは、規制を設けた意味がなくなってしまいます。
一方で、実際に指導しているのに、独立した指導サービスの対価をどう扱えばよいのか分からない。
個室を整備して特別な空間を提供しているのに、個室使用料をどう評価すべきか分からない。
プロ雀士を招いたイベントや麻雀大会でも、参加料のどこまでが遊技料金に該当するのか、判断が難しい。
こうした状況が続けば、新しいサービスを考える事業者ほど、料金設定に悩むことになります。
法律の趣旨を理解し、適正に営業しようとしている事業者が、新しいサービスの提供を断念することになれば、それも残念なことです。
私は、料金規制の趣旨を維持しながら、サービスの実態に応じた合理的な評価ができる制度にしていく必要があると思っています。
規制の緩和だけが答えとは限りません。
遊技料金と、それ以外の独立したサービスの対価について、より明確な基準を設けることも考えられるでしょう。
7.法律は、社会の利益を調整するためにある
私は以前、警察官として主に捜査部門で勤務していました。
警察官として法律を執行する側にいた経験がありますから、規制が必要なことは十分に理解しています。
現在は行政書士として、実際に店舗を開業し、経営しようとする方々から相談を受けています。
両方の立場を経験してきたからこそ、感じることがあります。
法律は、単に規制するためにあるのではなく、社会のさまざまな利益を調整するためにある。
私はそう考えています。
射幸性を抑える必要性がある一方で、事業者が創意工夫によって新しいサービスを提供し、適正な対価を得ることも大切です。
今回のような初心者へのコーチング、個室の利用、プロ雀士とのイベント、麻雀大会の参加料など、一口に「麻雀店の料金」といっても、その内容は実にさまざまです。
風営法の遊技料金に関する条文だけを読んでも、答えが出ない問題があります。
実際のサービス内容や料金の性質を確認し、ときには風営法以外の法令も含めて検討する必要があります。
そして、現行法の解釈で対応できることには限界もあるでしょう。
だからこそ、制度そのものを見直す議論も必要なのだと思います。
法律を守ることと、その法律が今の社会に合っているのかを問い直すことは、別の話です。
1985年から変わらない600円という料金上限。
麻雀を取り巻く環境は、この41年間で大きく変化しました。
法律も、その変化に合わせて考えていく必要があるのではないでしょうか。
今回の相談を受けて、私はそんなことを考えました。
法令・資料確認日:2026年11月3日
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