
「お店を別の会社に引き継ぎたい」「他の事業と切り離して、風俗営業の店舗を別会社で運営したい」「営業を止めずに、次の経営者へ引き渡せないか」。風俗営業の事業承継では、店舗や設備とともに、営業許可をどう扱うかが問題になります。
法人の会社分割では、あらかじめ公安委員会の承認を受けることで、風俗営業者の地位を別の法人へ承継できる制度があります。私はこれまで10件以上扱い、最近はポーカー店のM&Aや子会社への営業移管の相談も受けています。
最初にお伝えしたいのは、会社分割は、根回しが超重要ということ。不動産会社や貸主、銀行、司法書士・税理士などとの事前調整から、手続きと日程の注意点まで解説します。
1.事業承継で応えられる、お客様のニーズ

他の事業と切り離して、別会社で運営したい
事業承継の相談は、廃業する方から次の経営者へ引き継ぐケースだけではありません。他の業種の事業も行っている会社が、風俗営業の店舗を切り離して、別会社で運営したいというお客様もいます。
こうした運営体制の見直しでも、会社分割を検討します。ただし、別会社を作れば許可が自動的に移るわけではありません。許可の承継要件に加え、物件や融資などの契約条件を確認して進めます。
「辞めたい」と「始めたい」をつなぐ
廃業手続きを依頼された際、私は「次にこの場所で営業する方は決まっていますか?」と確認することがあります。辞めたい方と始めたい方がいれば、店舗を引き継ぐ選択肢が生まれるからです。当事務所では、双方の話が進んだ段階だけでなく、次の営業者につなぐところから関わることもあります。
条件が整えば、辞める側は店舗をスケルトンに戻さずに済んだり、保証金の返還につながったりします。ただし賃貸借契約や貸主との合意次第であり、必ず原状回復が不要になり、保証金が全額戻るわけではありません。
始める側には、物件を確保し、既存の内装や設備を使える利点があります。最近の相談では物件取得自体が大きな難関であり、今ある店舗を引き継げることにも価値を感じます。
店舗の引継ぎと、風俗営業許可の承継は別の問題です。通常の事業譲渡だけで、買い手が売り手の許可をそのまま使うことはできません。
2.会社分割は「根回し」が重要。不動産会社と銀行へ事前相談を

まず、店舗を使い続けられるか
許可を承継できても、店舗を使い続けられなければ計画は成立しません。賃貸借契約を確認し、お客様から不動産会社へ、どの会社に、どの方法で引き継ぎたいのか説明していただきます。
以前、会社を買い取る際に役員全員が入れ替わる相談があり、代表者変更に関する賃貸借契約の特約が気になりました。契約によって、通知で足りるものと相手方の同意が必要なものは異なります。会社分割なら承諾が必ず必要、あるいは不要とは一律に判断できません。
「その話は先にしてほしかった」となる前に
新会社を設立し、親会社の店舗の賃貸借契約を移したいという案件では、不動産会社への事前説明が足りず、「その話は先にしてほしかった」という状況になりました。新設会社だから認められないのではなく、関係者への説明が先にできていなかったことが問題です。
不動産会社の担当者が会社分割に慣れていないなら、仕組みから説明する必要もあります。当事者が進めるつもりでも、賃貸借条件や造作譲渡の金額がまとまらず、計画が止まることがあります。書類を作る前に、実行できる条件を整える。それが「根回し」です。
銀行への事後報告にも注意
融資規定には、会社分割などを決めた場合、銀行の請求によって「期限の利益」を失うと定めたものがあります。従来の返済予定どおり支払えばよい状態ではなくなり、残る借入金等の一括返済につながるおそれがあるということです。
会社分割で必ず一括返済になるわけではありません。ただ、「分割しました」と事後報告すれば済むとも考えないでください。計画段階で融資契約や銀行取引約定書を確認し、必要な通知・承諾、借入れ、担保・保証の扱いを銀行と調整します。
3.会社分割で風俗営業許可を承継する仕組み
風営法第7条の3は、風俗営業を営む法人が会社分割をする場合の制度です。分割の効力発生前に公安委員会の承認を得ることで、承継先が風俗営業者の地位を引き継ぎます。許可証だけを売買したり、名義を書き換えたりする制度ではありません。
個人営業にこの法人分割の制度をそのまま利用することはできません。相続や法人の合併には、別の承継制度があります。
新設分割と吸収分割
新設分割は分割によって新たに設立する会社へ、吸収分割は既存会社へ引き継ぐ方法です。先に普通の方法で会社を設立し、後から営業を移すことを当然に「新設分割」と呼ぶわけではありません。
複数店舗の一部を別会社へ移す場合や、グループ内で運営会社を整理する場合などに検討します。
| 比較する項目 | 新設分割 | 吸収分割 |
|---|---|---|
| 営業の引継ぎ先 | 分割によって新たに設立する会社 | すでに存在する会社 |
| 分割承認の申請者 | 分割元の法人 | 分割元と承継先の法人の連名 |
| 風俗営業者の地位を承継する時点 | 新会社の設立登記の日 | 吸収分割契約で定めた効力発生日 |
飲食店営業許可の承継とは区別する
飲食店営業許可には、2023年12月13日以降の事業譲渡について、許可に係る営業の全部を譲渡する場合、地位を承継して保健所へ届け出る制度があります。風俗営業許可は通常の事業譲渡だけでは承継できず、会社分割などの制度を別途検討します。
4.会社分割と新規許可、どちらを選ぶ?

私は、会社分割で承継できる案件でも、新たな営業者が許可を取り直す方法と両方を説明します。会社分割には公告・登記や必要な債権者保護手続きなど、会社法上の時間と費用もかかるからです。
私の感覚では、小規模店舗では費用対効果が合いにくいことがあります。一方、パチンコ店など休業の影響が大きい事業では、検討する意味が出てきます。ポーカー店のM&Aでも事情は店舗ごとに違います。これは規模による法律上の利用制限ではなく、営業継続の価値と負担を比べる実務判断です。
新しい営業者が新規許可を取れるか
営業制限地域内で既得権により営業していた法人の地位を、分割承認を受けて承継する場合と、新規許可を取り直す場合では、確認条件が異なります。「今のお店が営業できるから、別会社も同じ場所で許可を取れる」とは限りません。
費用と相手企業も確認する
見積りでは、専門家への報酬、公告・登記・申請の費用と、造作譲渡代金・保証金を分けます。総額は分割方式、会社の状況、店舗数、承継する権利義務や依頼範囲で変わるため、一律には示せません。
会社分割では、分割の事実と相手会社の商号・本店が登記に記録されます。私は、相手企業に問題がないか、承継後の取引関係へ影響しないかも慎重に考えるよう説明しています。
例えば反社会的勢力との関係に懸念があれば、銀行やカード会社との取引も含めて確認が必要です。ただし、登記に相手会社名が残るだけで自動的に取引停止になるという意味ではありません。具体的な関係と契約条項を確認します。
5.会社分割による承継手続き

① 条件整理と専門家との連携
許可名義、対象店舗、承継先、希望時期を確認し、物件・融資・譲渡条件を整理します。当事務所は許可承継の窓口となり、登記は司法書士、税務は税理士と連携します。契約の法的検討や紛争性のある交渉は、必要に応じて弁護士への相談も整理します。
② 分割計画・分割契約と会社法上の手続き
新設分割計画又は吸収分割契約で、承継する事業・権利義務を定めます。会社の状況などに応じ、株主総会の承認や債権者保護手続きを進め、会社法上の書類と公安委員会への申請資料が一致するよう専門家同士で確認します。
③ 公安委員会へ分割承認を申請
対象店舗を管轄する警察署を通じて申請します。分割承認申請書、分割計画書又は契約書の写し、分割後の役員就任予定者に関する書類などが必要です。添付資料は方式と法人の状況で確認し、承継先法人や役員等の欠格事由も審査されます。
④ 承認後に会社分割を実行
承認より先に分割の効力が発生すると、後から分割承認で従前の許可を承継することはできません。承認日と登記日を同日にそろえる必要はありませんが、承認を先に得て、必要な会社法上の手続きを完了させて実行します。
⑤ 許可証の書換えなど
分割実行後は、遅滞なく許可証の書換えを受けます。店舗名、管理者、構造・設備も変更する場合は、別途必要な届出・承認を確認してください。
6.承継に必要な期間と全体日程

法人の分割承認について、東京と大阪では公表上の位置付けが異なります。
東京都を単に「標準処理期間35日」と説明したり、大阪の経由期間20日を35日に上乗せしたりしないよう注意してください。大阪府警の資料には休日や補正期間の算定方法までは記載されていないため、具体的な日程は管轄署へ確認します。
| 地域 | 公表されている期間 |
|---|---|
| 東京都・警視庁 | 個別具体的な処理を要するため標準処理期間は定められないとしたうえで、35日以内を目安としています。行政庁の休日は含みません。 |
| 大阪府警 | 標準処理期間は35日です。経由期間20日は、この35日に含まれます。 |
処理期間の確認先:警視庁・法人分割承認の審査基準/大阪府警・法人分割承認の標準処理期間
35日で全作業が終わるわけではありません
標準処理期間は、申請が行政機関に到達してから処分までに通常要する期間で、承認日を保証する期限ではありません。相談、契約調整、書類準備、分割実行までの総日数とは異なります。私の経験でも、申請前の物件契約や譲渡条件の調整で止まることがあります。
債権者の異議申述手続きが必要な場合は、異議を述べられる期間として1か月以上を確保します。官報掲載までの待ち時間ではなく、「1か月」を一律30日に置き換えることもできません。
公安委員会の審査と会社法上の手続きには並行する工程もあるため、「35日と1か月を足せば終わる」とは計算できません。分割方式、管轄署、物件・融資条件、書類準備を踏まえて全体日程を組み立てます。
7.よくある質問
準備中も営業を続けられますか?
従前の営業者が自らの許可で営業し、承認等を経て、分割の効力発生に合わせて承継先へ切り替えます。申請中だからといって、新会社が従前の会社の許可で営業できるわけではありません。
会社を買い取って役員を変える場合も会社分割ですか?
会社分割、株式譲渡による買収、役員変更は別の方法です。「会社を買う」「新会社へ移す」という言葉だけで手続きを決めず、営業主体と承継方法を整理します。どの方法でも、物件や融資契約の確認は必要です。
相談時には何を用意しますか?
現在の許可証、法人の登記事項証明書、賃貸借契約書に加え、引継ぎ先・対象店舗・希望時期が分かる情報をご用意ください。借入れがあれば融資契約等も確認します。これは初回相談用の資料で、申請添付書類の一覧とは別です。
8.まとめ|引き継いだ後も営業できる条件を整える
会社分割は許可承継の選択肢ですが、私が重視するのは、店舗を使い続けられるか、譲渡条件や銀行への説明は整ったか、手続きの負担に見合うかという事前確認です。
行政書士法人ARUTOでは、新規許可との比較から、司法書士・税理士との連携、許可承継に必要な手続きの整理まで対応しています。「営業を止めずに引き継ぎたい」「一部店舗を子会社へ移したい」という方は、方法と日程を決める前にご相談ください。
会社分割は、根回しが重要です。関係者への事前説明から、一緒に進めていきましょう。
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