2025年3月9日公開 / 2026年11月更新

1.はじめに

バーやキャバクラの開業では、警察署に出す書類や保健所の許可に目が向きます。しかし、風営法の手続きが進んでいても、消防の確認が済んだことにはなりません。
居抜きで前の店の設備が残っている。客席は少なく、従業員も数人しかいない。そうした事情だけで、消防署への届出や防火管理者が不要になるわけではありません。
私がこの記事でお伝えしたいのは、届出の名前を全部覚えてほしい、ということではありません。内装を決める前に、誰に、何を確認するかを整理してほしいのです。完成した店を直すより、図面の段階で調整するほうが、開業の予定も費用も組み立てやすくなります。
ここでは、飲食店やナイトビジネスの開業前に確認する順番を、東京消防庁管内と大阪市の案内を例に整理します。
2.消防への相談は、内装工事の前から

相談先は、店舗の所在地を管轄する消防署です。代表者の自宅や法人の本店を管轄する消防署ではありません。まず住所から担当署と相談窓口を確認します。
そのとき、店の中だけを描いた図面では、必要な判断ができないことがあります。消防法令では、建物全体の用途や規模、入居する階、階段、窓なども関係するからです。
- 店舗の住所、建物名、入居する階
- 建物全体の階数・面積・各階の用途が分かる資料
- 店舗と入居階全体の平面図、客席・厨房・出入口の配置
- 予定する営業内容、従業員数、客席の使い方
- 既存の消防設備、厨房機器、ダクトの資料や写真
- 工事開始日と営業開始日の予定
東京消防庁も、テナント入居の相談では建物全体の情報や図面を準備し、居抜きでは現況を確認するよう案内しています。前の店舗の図面と、今の設備・間仕切りが同じかも見ておきたいところです。
「消防は工事業者がやってくれると思っていた」「届出だけは誰かが出したはず」という状態にしないため、相談、工事、届出、検査の日程を、誰が担当するかまで決めておきましょう。
3.使用開始届と工事の届出は、別に確認する

新しい店を始めるときに確認するのが「防火対象物使用開始届」です。これは、保健所の飲食店営業許可や警察への手続きとは別の届出です。
使用開始の7日前までに「防火対象物使用開始届出書」を提出します。届出が必要な内装工事等を行う場合は、工事開始の7日前までの「防火対象物工事等計画届出書」も確認します。工事内容と届出の対象を、計画段階で消防署に相談してください。
大阪市も、使用開始の日の7日前までの届出を案内しています。新たに店を始める場合のほか、事務所から飲食店への用途変更なども確認対象です。様式や必要資料は大阪市の案内に合わせます。
根拠は各地域の火災予防条例等です。「全国どこでも、東京の様式を7日前に出せば終わり」とは考えないでください。工事の届出、設備関係の手続き、検査の調整まで、所在地と計画に合わせて確認します。東京消防庁「飲食店を開業する方へ」/大阪市「新しくお店を始められる方へ」
居抜きで工事をしない場合も、使用開始の手続きが不要とは限りません。逆に、機器を一つ置くだけで、すべて同じ設置届が必要になるわけでもありません。
消防用設備等の設置届は、法令上の対象となる場合、設置工事完了から4日以内という期限があります。設備の種類や建物の用途・規模による対象範囲を、消防設備士や消防署と確認します。
実際の提出には、所在地の消防署が案内する最新の様式を使います。
4.「30人」は従業員数ではなく、建物全体で考える

防火管理者の要否で、特に取り違えないでほしいのが人数です。飲食店など不特定多数の人が利用する用途を含む対象建物では、原則として建物全体の収容人員が30人以上で防火管理者の選任が必要になります。「30人を超えたら」ではなく、30人からです。
収容人員は、従業員だけの人数でも、その日にたまたま来店している人数でもありません。用途に応じた法令の算定方法で、従業者の数、客席の数や床面積などから求めます。飲食店と遊技場などでは算定方法も異なるため、ポーカーバーを含め、実際の用途と配置を示して確認してください。
対象となるビルでは、所有者だけでなく各テナントにも防火管理者の選任・届出が必要です。大家さんが選任しているから自分の店は何もしなくてよい、ということではありません。
なお、すべての建物が30人基準ではありません。事務所等は50人以上、自力避難が難しい方が入所する一定の施設を含む建物は10人以上となる場合などがあります。建物の用途を確認したうえで判断します。
防火管理者は、必要な知識・資格を持ち、防火管理の業務を行える管理的・監督的な立場の人から選任します。講習を受けただけで店の手続きが終わるわけではなく、選任の届出、消防計画の作成・届出、実際の訓練や日常管理へつなげます。
資格はどう取る? 私は最初から甲種を勧めています
防火管理者の資格をこれから取る経営者の方には、私は最初から甲種の取得を勧めています。今の店は小さくても、将来、もっと広い店や多くのお客様を迎える店を営業する可能性があるからです。
甲種の資格は、防火管理者として対応できる建物の範囲が広く、乙種には用途や規模による制限があります。一般の飲食店などの特定用途では、乙種で対応できるのは、延べ面積300㎡未満の乙種防火対象物や、甲種防火対象物内でも収容人員30人未満のテナントなどです。建物全体の条件とテナント部分の条件を分けて判断するため、店の客席数だけで決めず、管轄消防署に確認してください。千葉県「甲種と乙種の違い」
対面の甲種防火管理新規講習は通常2日間、乙種は1日です。忙しい開業準備の中で2日を確保するのは大変ですが、今後の店舗展開まで考えて、最初に甲種を取っておくことをお勧めします。大阪市の講習日程・申込案内
「防火管理者」と「防災管理者」は別の資格です
甲種・乙種があるのは防火管理者の資格です。防災管理者には、この区分はありません。防災管理者は、一定の大規模・高層建築物などで、地震をはじめとする火災以外の災害への対応を担います。すべての飲食店で必要になるわけではなく、入居する建物の用途・規模などで確認します。総務省消防庁「防災管理制度」
防災管理も必要な建物なら、甲種防火管理者と防災管理者の両方の資格が必要です。両方を初めて取得する方向けには「防火・防災管理新規講習」もあります。甲種だけの講習と名前が似ているので、必要な資格を確認してから申し込みましょう。大阪市中央消防署「防火・防災管理講習、どれを受ければいい?」
講習は早めに申し込み、経営者も受講を
- 管轄消防署に、建物・店舗で必要な資格を確認する
- 消防本部や登録講習機関の案内で、受講対象・日程・申込期間を確認する
- 事前に受講を申し込み、指定された教材や持ち物を準備する
- 講義・実技・効果測定など、案内された課程を修了する
- 選任の届出や消防計画の作成・届出を行い、店舗での管理を始める
講習には定員があり、事前の申込みが必要です。東京消防庁の対面講習も、受付期間内であっても定員に達すると締め切られます。開業直前ではなく、日程が決まった段階で早めに確認しましょう。東京消防庁「対面講習の申請」
実技の有無や受講方法は、実施機関・講習によって異なります。例えば東京消防庁の防火・防災管理新規講習には、対面2日間のほか、オンラインで約7時間学習した後、会場で実技を含む講習を1日受ける方式もあります。申込先の最新案内で、会場に行く日と必要な課程を確認してください。東京消防庁「オンライン講習+実技講習の申請」
予約をして時間を確保し、実技にも参加するとなると、手間はかかります。それでも私は、災害時にお客様やスタッフを守るために、とても価値のある学びだと思っています。店長に取ってもらうだけでなく、経営者自身にも取得してほしい資格です。
なお、経営者と店長の両方に資格取得を勧めるのは、私の実務上の考えです。実際に誰を防火・防災管理者として選任するかは、その店舗で管理・監督する立場にあり、必要な業務を行えるかを踏まえて決めます。
5.居抜きの設備、窓、扉は「前の店と同じ」で済ませない

残っている消火器や誘導灯が見えると、それで準備できているように感じるかもしれません。しかし、必要な設備は、営業内容や建物の規模、階、開口部などで変わります。設置されているかだけでなく、必要な位置・数量や維持管理の状態まで確認します。
調理に火を使う飲食店では、小規模でも消火器の設置対象になります。ただし、法令所定の防火上有効な措置がある設備等の扱いもあります。「小さいから不要」「火を使わないから消防設備は全部不要」と、どちらも一言では決められません。
カーテンやじゅうたん等も、防炎規制の対象となる建物・物品では防炎性能が必要です。店の雰囲気だけで選ばず、設計者や消防署に対象を確かめてから発注しましょう。
ナイトビジネスの内装では、窓を覆う、出入口を変える、間仕切りや扉を増やす、といった計画もあります。このとき、消防側が必要とする避難や消防活動の条件と、営業区分ごとの風営法上の構造・設備の条件を、同じ図面で確認する必要があります。
私は、これを単に「風営法と消防法が矛盾する」と片づけるより、それぞれが何を確認しているのかを分け、両方に適合する計画にすることが大切だと考えます。
窓なら、避難・消防活動に必要な開口部への影響はどうか。扉なら、防火戸の機能や避難を妨げないか。風営法側でも、その営業区分で何が求められるか。窓はすべて塞げない、内扉があればすべて違反、といった一律の説明ではなく、具体的な仕様と配置を照合します。
6.開業後も、点検と日々の管理を続ける

営業を始めてからも、消防用設備等の点検・報告は続きます。一般に機器点検は6か月ごと、総合点検は対象設備について1年ごとです。飲食店等の特定防火対象物では、点検結果を1年に1回報告します。誰が実施し、どこまでを建物側・店舗側で担当するのか、管理会社や点検業者と確認しておきましょう。
これとは別に、一定の用途・規模・階段の条件などに該当する建物には「防火対象物点検報告」があります。消防設備が動くかという点検と、防火管理の実施状況などを確認する点検は、同じ制度ではありません。
- 避難口や通路に荷物を置いていないか
- 防火戸が閉まる範囲を塞いでいないか
- 消火器や誘導灯の位置をスタッフが把握しているか
- 席や間仕切り、厨房機器を変える前に相談しているか
- 点検・報告・訓練の担当と予定が決まっているか
消防法令違反については、是正の命令や使用禁止・停止等の行政上の措置と、違反内容に応じた刑事罰を分けて考える必要があります。罰金は行政処分ではありません。ここでは不安をあおるために罰則を並べるのではなく、開業前から必要な対応を確認することをお勧めします。
風営法の申請図面を整えることと、営業する建物の安全を確認すること。片方が済めば、もう片方も済むわけではありません。開業日から逆算し、工事を始める前に消防の確認も並行して進めましょう。
本文では東京消防庁・大阪市・総務省消防庁の公表資料を参照しています。消防手続きは所在地、用途、建物・設備の状況に応じて確認してください。
開業前の相談について
行政書士法人ARUTOでは、風営法関連の相談・許可申請を年間300件以上サポートしています。物件資料、平面図、予定する営業内容、工事・開業の予定をご用意いただくと、確認事項を整理しやすくなります。
必要に応じて消防署、設計者、消防設備士などと確認する事項を分けながら、開業準備を進めましょう。


