目次
1.はじめに
風俗営業の許可を得るためには、審査中に実施される「実査」を通過しなくてはなりません。
実査とは、公安委員会から委託を受けている風俗環境浄化協会の検査員(地域によっては管轄の警察官)が訪れ、店舗の構造等をチェックすることを指します。
この記事では、風営法の実査における調査項目や通過のコツを解説します。
これから風俗営業許可を取得しようとする方は、ぜひ参考にしてください。
2.風俗営業許可の実査とは?
2-1.実査の概要
風俗営業許可の実査(じっさ)とは、申請内容と実際の店舗に相違がないか、完成後の店舗を訪れて調査することです。
実査をクリアしなければ風俗営業許可は取得不可となるため、開業に向けた大変重要な検査となります。
検査日は申請より2~4週間後、管轄の警察署により指定された日時に実施されます。
実査時の重要なポイントは「店舗が営業可能な状態である」ことです。
保健所が管轄する飲食店営業許可では基本的に、調理場とトイレの水回りが出来ていれば許可は下りますが、風営法申請における実査では工事道具などが置いてある状態でもNGです。内装工事だけでなく、備品の設置に至るまで完了していなければなりません。
営業ができる状態で実査を受けるのが条件となっています。
不備がなければ許可は申請してから概ね2ヶ月(標準処理期間55日:官公庁の閉庁日は除く)で下ります。実査終了後しばらく審査期間があった後、晴れて許可証の交付となります。
2-2.実査当日の流れ
実査は基本的に浄化協会の検査員により行われますが、警察署の担当官が一緒に検査するケースもあります。浄化協会の検査員は警察OBが多いため、要するに全員が警察関係者というわけです。
地域によりさまざまなパターンがありますが、消防署や市・区役所の職員の立ち入り検査も同時に行われ、店舗や営業についての注意事項について指導を受けます。
実査がスタートした後は、営業所の構造等が申請書や図面と一致しているか等を細かくチェックしていきます。
店舗面積がさほど大きくなければ、実査は1時間以内で終了するケースがほとんどです。
2-3.実査でチェックされる検査項目
実査では、基本的に「風営法の規定」と「申請書・申請図面の記載内容」はすべてチェックされます。検査員がチェックする内容を具体的に紹介していきましょう。
① 店舗の寸法は図面通りか
浄化協会の検査員が、レーザー距離計やスチールメジャー(コンベックス)を使用して店舗内の寸法を測っていきます。
図面に記載した寸法はすべてチェックされ、店舗内の縦・横の最大寸法などの確認がされます。検査員の判断にもよりますが、±3㎝程度の誤差であれば許容されることが多いです。
② 店外から客室内が見えないか【1号:社交飲食店】
風俗営業の店舗では、店の外から客室内が見えてはいけません。
そのため、店外のあらゆる箇所から客室が見えないかを目視でチェックされます。
空中階にある営業所でも、向かいのビルの窓から客室が見えてはいけません。
③ 客室の見通しがあるか
風営法では、客室内で高さ1m以上の仕切りや壁の死角などの配置により店内の見通しを妨げることを禁じています。
これに該当するものがないか、目視やメジャーの使用によりチェックされます。
ただ、客室内でも壁に面しており、見通しを妨げない構造であればその限りではありません。
アイランドカウンターは、見通しを遮る構造に当たるので注意が必要です。
④ 二重扉に鍵はないか
『出入口の内側に二重扉を設置する場合、二重扉側に鍵を設置してはいけない』という風営法の規定に則り、鍵の有無をチェックされます。
これは風営法の規則では、営業中は出入口扉に施錠をしてはいけないという規則があるためです。
独立している防火扉は出入口扉には含まれませんが、防火扉と出入口扉が一緒になっているものは出入口扉とみなされます。そのため内装工事を入れる際は行政書士に現場と図面の両方をチェックしてもらった方が良いでしょう。
⑤ 照明スイッチが調光式でないか
風俗営業の店舗では明るさに明確な規定があるため、スライダックスと呼ばれる調光式の照明スイッチは原則、使用できません。
そのため、各スイッチパネルに調光器が無いかをチェックされます。
実際の現場では、スライダックスとON・OFFスイッチが混在するケースも多いです。この場合、スイッチはOFFの状態にして、スライダックスは一番搾った状態にして照度を計測するため、照度を規定内にもっていくことがほとんど不可能となってしまいますので注意が必要です。
※スライダックスの運用によっては、公安委員会の管轄によって若干違いますので不安な方は事前確認するのがいいでしょう。
⑥ 出入口付近に「18歳未満立ち入り禁止」の掲示があるか【1号、4号、特定遊興】
風俗営業1号(社交飲食店)の営業では、18歳未満の出入りは禁止されています。そのため、『18歳未満の立ち入りはお断りします』のプレートを掲示するといった対策が必要です。
⑦ 出入口付近に「屋号(看板)」を掲示しているか
申請内容通りに屋号(看板)が出入り口付近に掲示されているかをチェックします。看板や表札などが適切に設置され、すぐに営業可能な状態であるかを確認されます。
⑧ システム表・メニュー表が準備されているか
店舗がすぐに営業可能であるかを確認するため、システム表・メニュー表についてもチェックされます。
「申請内容通りのメニュー表が用意されているか」、「メニュー表が入り口や店内の見やすいところに掲示されているか」といった内容が確認されます。
シャンパンタワーなど価格記載のないもの、または【ask】などは禁止されており、料金は明示しなければいけません。
⑨ 年齢確認が適切に行えるか
18歳以上が成人となった現在も、飲酒や喫煙が可能なのは20歳以上です。
20歳未満の者に酒類の提供をしない意思を示すプレートの掲示や、入店時の年齢確認についての対策はどうするかなど調査員による面接も行われます。
⑩ 防音対策が講じられているか
周辺から騒音のクレームが出ないように、防音壁が施行されているかなどをチェックされます。
特に、クラブやカラオケを設置するケースでは防音対策は必須で、床・壁・天井への吸音材設置や、音量出力・防振装置の設置といった対策が求められます。
⑪ 音響・照明の種類が申請した図面どおりか
音響や照明の種類が申請した図面どおりに記載されているかをチェックされます。
すべての音響や照明を調査し、動作に問題がないか、配置や個数が図面通りかを確認されます。
防犯カメラや消防設備の誘導灯などは検査対象外です。
⑫ イスやテーブルの配置・寸法が図面どおりか
イスやテーブルの配置や種類、個数や寸法などが図面通りかチェックされます。
申請図と相違があった場合には図面の差し替えで対応できますが、実査以降の変更は許可が下りた後の変更となります。
ここで指摘が多いのが、椅子の背もたれ、カウンターの高さが1メートルを超えてしまうことです。風営法の規則では、客室内に高さ1メートルを超えるものについては視界を遮るものとみなされてしまうため、設置することができません。座面の高さを伸縮ができる椅子については、一番伸ばした状態で計測されます。
この運用についても管轄の公安委員会によって運用が異なりますので、管轄の警察署に事前確認することがいいでしょう。
⑬ 高さ1メートルについての確認
前記③と⑫の追記になります。
客室内に段差があるような構造では、一番低い箇所を高さの起点にするのか、しなくて良いのかについても、管轄の公安委員会によって運用が違います。
客室内に段差があって、一番低い箇所を起点する公安委員会の管轄だと、客席を設けるのが不利となってしまいますので注意が必要です。
⑭ 従業員名簿が用意されているか
風営法では、従業員名簿の作成が義務付けられています。
以下の内容を記載した名簿を作成し、店内に常時置いておきましょう。
- ・氏名
- ・履歴
- ・性別
- ・住所
- ・本籍地
- ・具体的な仕事内容
- ・雇用開始日
- ・退職年月日及びその理由
定められた項目を網羅して記載してお店に保管しなければいけません。
書式については決められた書式はありませんので、当事務所で使用しているコチラの書式をダウンロードして使用してください。
3.実査を通過するコツと注意点
早めの集合
実査当日は、申請者と行政書士(依頼する場合)は予定時刻よりも早く店にいることが大切です。
地域差もありますが、東京都では開始予定時間の30分前には浄化協会の調査員が到着します。実査前の最終確認にもまとまった時間を要すため、予定時刻の45分~1時間前には集合し、綿密な事前チェックを進めるようにしましょう。
また、特別な事情がない限り申請者自身の立ち合いが必要です。
道具を準備
実査に必要な道具はすべて調査員が持参しますが、不測のトラブルや再確認が必要な折には自分でチェックするケースもあります。
申請書と申請図面の控えはもちろん、申請書類を修正することもあるのでレーザー距離計やスチールメジャー、バインダーや筆記用具などを準備しておくといいでしょう。
行政書士に依頼する場合では不要な場合もあるので、事前に確認しながら実査に挑みましょう。
身だしなみや態度に注意
意外な点かもしれませんが、実査では申請者の印象が良いことも大切です。
身だしなみや態度に気を付け良い雰囲気づくりに努めることで、トラブルのないスムーズな進行が期待できます。
和やかな雰囲気で進めることが出来れば、検査員の判断に委ねられるような項目も柔軟に対応してもらえる可能性が高まります。
行政書士に依頼する場合でもあいさつや返答などは愛想よく対応し、くれぐれも高圧的な態度などは避けるようにしましょう。
4.まとめ
今回は、風俗営業許可の実査についてお伝えしました。
管轄の公安委員会によって、細かなところでは運用基準が異なるのが実情です。
また、検査員は警察関係者ということもあり、その熱量と厳粛な態度に緊張する方も多いかもしれませんが、指示内容に素直に従えば大きな問題には至りません。
しかし、実査での検査項目は細かく入念な下準備が欠かせません。自身での審査通過に少しでも不安があれば、行政書士に依頼して万全の体制で挑むことをおすすめします。
渋谷区恵比寿を拠点とする行政書士法人ARUTOでは、風俗営業に関する許可申請を専門に扱っています。年間300件を超える実績から、あらゆるパターンに応じた最適な方法で申請者様をサポートいたします。
風俗営業許可の申請をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。